東京地方裁判所 昭和54年(ワ)11092号 判決
一 原告が本件実用新案権を有すること、本件考案の登録出願の願書に添附した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
右争いのない実用新案登録請求の範囲の記載に成立に争いのない甲第三号証(本件公報。別添実用新案公報と同じ。)の記載を総合すれば、本件考案の構成要件は次のとおりであると認められる。
A 取付バンドを上端縁に連接したカバー主体を設けたこと
B 所要の幅と長さを有する補助防水カバーを設けたこと
C カバー主体の背面側に、補助防水カバーの上端縁を取付バンドにカバー主体の上端取付部と一体に取付けたこと
D 洗髪用汚水除け肩カバーであること
二 被告製品の構成が別紙目録記載のとおりであること及び被告製品の構成のうち、dが本件考案の構成要件Dを充足することは当事者間に争いがない。
三 そこで、本件考案の構成要件AないしCと被告製品の構成aないしcとを対比する。
1 本件考案の補助防水カバーは、その上端縁を取付バンドにカバー主体の取付部と一体に取付けられた構成のものである(構成要件C)。これに対し、被告製品の補助防水カバーは、マジツクテープによりカバー主体に取付け及びカバー主体から取外すことができるよう着脱自在の構成である(b及びc)。そうすると、本件考案が、補助防水カバーとカバー主体とが一体に不離に結合されているのに対し、被告製品は、補助防水カバーとカバー主体とは一体ではなく、補助防水カバーがカバー主体とは別個にかつカバー主体に対し着脱自在なる構成をとる点において相違し、被告製品の構成b及びcは本件考案の構成要件Cを充足しないこととなる。
2 原告は、本件考案の構成要件Cにおける「補助防水カバー」をカバー主体に「一体に取付けた」との構成は、補助防水カバーが、被告製品のように、カバー主体に対し前記のように着脱自在の構成であるものも包含する旨主張し、その理由として、本件考案の目的が美容院等で婦人の髪をシヤンプーボールによつて洗髪する際、汚水が、シヤンプーボールの頸部を載せ掛ける凹溝部に流入して肩を覆つたカバーに伝わり、これから滴下して被服をぬらすという欠点を除去することにあり、そのために本件考案は肩カバーの背面側に補助防水カバーを設けたものであり、この補助防水カバーをシヤンプーボール内に垂らして凹溝部をふさぐ状態にして同部に汚水が流れ込むことを防止するのであるから、補助防水カバーはカバー主体に一体に形成されることに限定されるものではなく、本件明細書にも補助防水カバーが使用後取外しができないものに限る趣旨の記載はない。したがつて、「一体に取付けた」というのは補助防水カバーの上端縁をカバー主体の上端取付部に一緒にあるいは、連続するように取付けたことをいうのであつて、補助防水カバーは使用時に連接されていれば足る、旨説明する。
しかしながら、前顕甲第三号証(本件公報)によれば、本件明細書には、補助防水カバーとカバー主体とが一体に不離に結合されたものに限定される旨の文言は存しないことが認められること原告主張のとおりであるが、右明細書の考案の詳細な説明の欄には「美容院等で主として婦人の髪をシヤンプーボールによつて洗髪する際シヤンプーボールの縁に設けた頸部載せ掛け用凹溝部に」「侵入した汚水が肩カバーに伝わり」「これより滴下して被服類を漏らすことが多い欠点があ」つた(別添実用新案公報一欄一七行ないし一九行、二〇行、二欄五行ないし六行)こと、本件考案はこのような欠点を除くために、その「構造を頸部に巻付けて緊締する柔軟な取付バンド1に塩化ビニール又は防水布製カバーを連接した従来の防水肩カバー主体2を構成し、このカバー主体の背面側に上端縁を取付バンド1にカバー主体2の上端取付部と一体に取付けた所要の幅と長さを有する補助防水カバー3を設けたものである。」(同公報一欄二二行ないし二欄二行)こと、この構成により、「洗髪の際第3図に示しているように補助防水カバー3をシヤンプーボールの内側に垂らして頸部を載せかけたシヤンプーボールの凹溝部に対し汚水が流れ込むことを防止したので」「汚水は凹溝部に流入する余地がないから汚水によつて被服を漏らす憂いは全くないのである、このような効果を有する本考案は単に補助カバー3を取付バンド1にカバー主体2と共に取付けただけの極めて簡単な構造であるから製作容易で而も安価に製作することができ」(同公報二欄八行ないし一一行、一二行ないし一八行)ると、実用上の効果を述べていることが認められ、右事実は、本件考案においては補助防水カバーとカバー主体とが一体に不離に結合されているものであることを前提としていることが明らかであり、更に、同号証によれば本件考案の実施例を示す図面第1ないし第3図にも補助防水カバー主体とが一体に不離に結合されているものが示されていることが認められる。
しかして、以上の認定に本件口頭弁論の全趣旨を総合すれば、以上みてきた考案の詳細な説明における本件考案の構成とこれにより奏する作用効果を前提に、前記確定のごとく、「カバー主体の上端取付部と一体に取付けた」「補助防水カバーを設けたことを特徴とする」ことをその登録請求の範囲として登録出願をし、前記のとおり登録をえたものであることを認めることができ、これに反する証拠はない。
してみれば、本件明細書には、補助防水カバーとカバー主体とが一体に不離に結合されたものに限定される旨の文言は存しないものの、本件実用新案登録請求の範囲の記載自体、その補助防水カバーとカバー主体とが一体に不離に結合されているものであることを要することを示し、考案の詳細な説明の欄にも実施例についてそのことを前提とする記載が存する一方、補助防水カバーはカバー主体と別個に、カバー主体に対し着脱自在のものとして構成されてよい旨の記載あるいはこのことを予定し若しくは示唆する記載は存しないから、結局本件考案にいう「一体に取付けた」とは補助防水カバーとカバー主体とが一体に不離に結合されたものをいい、前記確定した被告製品のように、補助防水カバーがカバー主体とは別個にかつカバー主体に対し着脱自在に構成されているものは含まないものといわなければならない。
これが認定に反する趣旨の甲第七号証にみられる見解は、当裁判所の採用し難いところである。他に、この点に関する原告の主張を正当とするに足る証拠はない。よつて、原告の右主張は採用することができない。
3 原告はまた、被告製品の補助防水カバーがシヤンプーボールの頸部を載せ掛ける凹溝部入汚水が流入することを防ぎ被洗髪者の被服をぬらすことがない効果を奏するから、本件考案と構成上本質的な差異はなく、技術的範囲に属する旨主張する。
本件考案の奏する作用効果は前段認定のとおりであり、被告製品は洗髪の際カバー主体の背面側に補助防水カバーをマジツクテープで接着させることによつて取付けたうえ、補助防水カバーをシヤンプーボールの内側に垂らして使用することにより頸部を載せ掛けたシヤンプーボールの凹溝部に対し汚水が流れ込むことを防止した結果、汚水による洗髪者の被服をぬらすことがないとの作用効果を奏することは被告の自認して争わないところであるから、この限度において被告製品は本件考案と同一の作用効果を奏するものということができるが、同一の作用効果を奏しうるからといつて直ちに被告製品が本件考案の技術的範囲に属するといえないことはいうまでもなく、またこのような作用効果を達成するため、本件考案が補助防水カバーをカバー主体と一体に不離に結合するという構成を採用したものであるのに対し、被告製品は補助防水カバーをカバー主体とは別個に、かつカバー主体に対し着脱自在のものとし、使用時に接着させて合体するという構成を採用したものであつて、両者は、右作用効果(被告製品は右の作用効果に加えて、洗髪後補助防水カバーの水滴を拭除することなく水滴の残留する補助防水カバーのみを直ちにカバー主体から簡単に取除くことができ、取除いたあとぬれていないカバー主体を、そのまま着用した状態で次の作業に移ることができるから作業能率がよいし、かつ補助防水カバーは同カバーのみを後刻拭除することを簡単になしうるという被告主張の作用効果をも奏すること本件口頭弁論の全趣旨から肯認しうる。)を達成するための技術手段を異にするのであるから、被告製品が本件考案の技術的範囲に属するとすることはできない。よつて、原告の右主張もまた、採用することができない。
4 原告は、仮定的主張として、被告製品が補助防水カバーをカバー主体に対し着脱自在である構成をとることは、本件考案と同一技術思想に基づくもので、これに単なる設計変更を施したものにすぎないものというべきであるから本件考案の技術的範囲に属するものであると主張するが、その主張の採用しえないこと叙上説明から明らかであるし、また、原告は、被告製品は「本件考案の要旨を含みこれをそのまま用いたうえでの製品であるからいわゆる本件考案を利用するものである」旨主張するところ、その趣旨は本件実用新案権の侵害を主張するものとして明らかではないから、右主張する事由の故をもつて直ちに被告製品が本件考案の技術的範囲に属するとの結論を導くことはできない。
5 してみれば、その余の点について判断するまでもなく被告製品は本件考案の技術的範囲に属しないものといわざるをえない。
四 よつて、被告製品が本件考案の技術的範囲に属することを前提とする原告の本訴各請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとする。
〔編註〕本件に関する目録および図面は左のとおりである。
一 品名 洗髪用汚水除け肩カバー
(商品名 ボビーマイクロース)
二 構成 添付図面(第1図は補助防水カバーを使用状態に装着したカバー主体の展開背面図、第2図は補助防水カバーの内側正面図、第3図(一)は第1図A―A線に沿う縦断面、第3図(二)は右縦断面の一部拡大図、第4図は補助防水カバーを装着したカバーの使用状態を示す。)に示すとおり、カバー主体2の上端縁に頸に巻きつけるバンド状縁1を縫着し、そのバンド状縁の背面側には、ほぼ中央部にマジツクテープ5を取付け、中央より一方寄りにマジツクテープ7及び8を取付け、バンド状縁1の内側には、マジツクテープ7、8の反対方の端部にマジツクテープ9を取付け、カバー主体2と別個に形成し、カバー主体に対しマジツクテープにより着脱自在に設けられた合成樹脂製の補助防水カバー3の上端縁に、防水布製帯状縁布4を縫着し、その帯状縁布の内側中央下端にマジツクテープ6を取付け、シヤンプーボールによる洗髪に用いる際、前記マジツクテープ5とマジツクテープ6とを接着させて、補助防水カバー3の上端縁に縫着された防水布製帯状縁布4の内側中央下端を、カバー主体2の上端縁に縫着したバンド状縁1の背面側に直接結合させ、補助防水カバー上端縁に縫着した帯状縁布4を、バンド状縁1より約五センチの高さに突出させて、その突出部分をタオルとともにえりの中にはさむ構成となつている。
なお、マジツクテープ7、8、9は、バンド状縁1を頸に巻きつける場合にとめるものである。
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